研究テーマ

1. 行動最適化の分子・神経回路とその進化の理解

「行動最適化」とは、中枢神経が環境情報を評価し、適した行動をとるための生命機能です。とりわけ、ストレスの刺激の強さに応じた逃避は重要です。逃避行動は、あらゆる生物が生存のために確立した本能であり、線虫のように神経回路がシンプルな生物から、哺乳動物のように複雑な脳を持つ生物まで、根底には共通原理があると私たちは考えています。本研究は、行動最適化の鍵を担う神経回路がどのように作られ、使われ、適切な行動を導くのか?に焦点を当てます。私たちはこれまでに、線虫 Caenorhabditis elegans (C. elegans ) の逃避行動の最適化を評価する独自の解析系を確立してきました。線虫で「配線」情報と「分子」情報を、機能(細胞機能・生体の行動)から紐解いていくことで、他の分野にも派生する足場を築き、神経行動学の発展に貢献したいと考えています。

2. 行動性差のしくみの解明

多くの性を持つ動物では、性別に依存した回避手段の違いが見られます。人類は脳の性差に興味を抱いてきましたが、その具体的な神経ネットワークは多くがブラックボックスのまま残されています。性差について、線虫 C. elegans では、性差のあるシナプスと、それらの単一神経細胞に発現する遺伝子の網羅的解析例が相次いでトップジャーナルに掲載されています(Bayer EA, Hobert O, Nature, 561:117-21, 2018; Hart MP, Hobert O, Nature, 553:165-70, 2018; Cook SJ, et al., Nature, 571:63-71, 2019; Bayer EA, et al.,Current Biol, 30, 3604–3616,2020)。そこでわかってきたことは、行動は解剖学的なニューロンの配線と遺伝子発現レパートリーの羅列だけでは理解できないということです。私たちは、逃避行動最適化の性差を生み出す回路と分子、細胞応答の統合的な解明を目標としています。

3. 神経発達症リスク因子のシナプス機能の解明

同じ刺激(音など)でも、感じ方、受け取り方は個人差があり、その結果として現れる行動にも個人差があります。どの行動をとるかを決めるのは、状況や性差、育った環境などの様々な要因があります。そして、神経回路の発生異常は精神・神経疾患の素因であり、研究成果の社会還元が期待されています。例えば、自閉症スペクトラムや発達障害の患者さんは、音や光、痛み等の感覚に対して過敏になったり、逆に感じにくくなるなど、適切な社会的行動が取れないといった症例が散見されます。この原因は、脳の中の「行動最適化回路」の不具合だと考えられます。まずは線虫の「ミニチュア回路」を明らかにすることで、ヒトの複雑な脳機能の理解への足がかりを作ることを大目標としています。

奈良女子大学

研究院自然科学系生物科学領域

〒630-8506 奈良市北魚屋西町

Faculty Division of Natural Sciences

Nara Women's University

Kitauoya-Nishimachi, Nara, 630-8506, Japan

Copyright © Faculty Division of Natural Sciences
トップへ戻るボタン